ドキュメンタリー映画「旅する不動明王」試写会と古地図未二観 ~津屋崎玉乃井不動円坐~

「人はたくさん来てもみんなイベントで終ってしまうのよ。」

先月、有無ノ一坐が定期的に訪れている福岡県の福津市津屋崎町で、長年津屋崎に住んできた土着の人々の精神的支柱である柴田冨美子さんからの問題提起がありました。そこで有無ノ一坐から見た津屋崎の町の現状認識を一部お伝えしました。

津屋崎での円坐を通じて我々は以下のように町の現状を把握しています。

① いわゆる「対話によるファシリテーション」や「まちおこしのプログラム」を地域に適用することで生じる土着のかかわりあいの空洞化。

② かかわりあいの空洞化による津屋崎の歴史的な精神文化の衰退。

③ 空洞化は「ファシリテーション」や「まちおこしプログラム」による「人間同士のかかわりあい」のイベント化と効率化によって進行している。

④ 対外向けのコンテンツとして人工的に多発する表層での「イベント」と、「ばあちゃん達の雑談の場」のように事前に内容を想定してプログラム化される「地域の人間関係の合理化と効率化」によって、土地の精神文化に根差して自然なタイミングで成立していた土着のかかわりあいの時間と空間が消失しつつある。

⑤ 津屋崎をはじめとして日本の各地に移植されている「対話のワークショップ」や「ファシリテーション」「まちおこし」などのメソッドや方法論は、地域の人間関係の個人主義化と都市化を急速に促進(ファシリテート)しているのではないか。

⑥ 個人主義化とは、亡くなった先達を含む重層的な土着の人間関係の合理化、効率化、断片化、均質化を内容とし、都市化とは経済合理性による歴史的、精神的な固有の文化を持つ地域社会の淘汰と再編成のことである。

⑦ 人間本来のかかわりあいの営みである「個と個の精神の対峙と対決」は、「ファシリテーションデザイン」や「コミュニケーションのプロセス編集」によって人工的に組み立てられた対話のツールやワークやメソッドによって置き換えが進んでいる。

⑧ 事前に合意形成を目的として潜在させ、社会からの承認を目指す「対話型ファシリテーション」や「対人関係ワーク」などのコミュニケーション技法は、現代先進社会の特徴的な価値観である経済合理性や平等主義、人工知能的機能主義を地域に浸透させる大きな推進力となっている。

今回は、柴田冨美子さんから我々に見せたいものがあるから来てほしいとのご伝言を頂いて伺ったおりに、柴田さんの親しいご友人方も紹介していただきました。

柴田さんは25年前に亡くなられたご主人の治さんが描いた津屋崎の風景画と、治さんのご親友であった旧玉乃井旅館の主、故安倍文範さんが柴田さんに宛てた手紙や年賀状を我々に見せてくださったのでした。

柴田治さんが描いた冨美子さんたちの心の中に今も生きている津屋崎の原風景と、阿部文範さんから冨美子さんへの慈愛にあふれた私信を囲んで始まった小さな円坐の中で、柴田さんを始めとする三人の女性が“三婆(さんばば)”と呼ばれているんですよ、とお聞きした時、その文脈から我々はその呼称が集落の古老方に対しての敬意に欠けた用いられ方をしていると感じました。

たとえば「津屋崎の三婆」や、「ばあちゃんたちの笑顔」といった言葉を「まちおこし」のノウハウのコンテンツとしてラベル化し、善意で協力してくださる町の人々のキャラクターとして貼り付け、地域活性化の成功をイメージさせるキャッチ―な文言としてメディアに発信している場合があります。

我々がかかわりあいを持っている徳島や高知、香川、福岡などの一部地域で、行政や大学や専門家の「支援」によって実践されている「まちおこし」は、あらかじめ人工物のフィルム(コンテンツやプログラム)を作った上で土着の精神性の表面に張り付けるいわばラミネート加工のような方法を用いています。

地域の人間関係の「ラミネート加工」によって、土着の精神文化に基づいた人間関係と、経済・合理・効率・平等などの概念に基づいた「まちおこし」という人間関係との間には、互いにふれ合うことのできない無機的な乖離が生じています。

そのことが十分意識化されていないか、あるいは気づいていながら発言しにくい「空気」が、たとえば「ファシリテーション」や「対話型○○」と呼ばれるような人間関係技法そのものによって醸成されているように見えます。

津屋崎では、土着の人々の生活に密着した人間関係と、まちおこしのコンテンツによって表面に吸い上げられて形成される個人主義的な人間関係との乖離による精神的な生活環境の二層化に加えて、ネット上に流布した津屋崎の町のイメージを「購入」し、アイターンで町に住み始めた新しい人々とのディスコミュニケーションによる摩擦も生じており、地域の人間関係や精神性が少なくとも三層に分離しているようすが観察できます。

有無ノ一坐の津屋崎町へのかかわりあいは、コロナ禍の真っ最中に開かれた博多円坐に、津屋崎に住む戸郷なびさんが参加されたことから始まりました。

齢九十の身でありながら津屋崎の人々のために奔走され、お疲れの見える柴田冨美子さんを案じる思いを一生懸命に語られた戸郷なびさんに導かれて、「津屋崎玉乃井円坐」の開催と、柴田冨美子さんと有無ノ一坐との出会いが実現したのです。

円坐街道旅のどさまわり一坐にすぎない我々に対し、今はもう亡き津屋崎を愛した先人のことを熱く深く語り、個人的な胸の内まで開いてくださる柴田冨美子さんへの報謝を思ううちに、有無ノ一坐の関東の盟友である神奈川の天台宗等覚院・中島光信師を、柴田冨美子さんや町の方々に親しくご紹介することを思い立ちました。

川崎市宮前区の「神木(しぼく)」と呼ばれる地域には、「つつじ寺」として庶民に愛される「神木山等覚院」を精神的支柱とするかかわりあいの文化があります。

先祖から引き継いだ土地への敬意と、お互いの尊厳に基づいたかかわりあいの精神文化が江戸時代から継続しているのは、「不動明王ご巡業」という土着の祭事が人々の内面に今も生きているからです。

先日、旧玉乃井旅館の応接間で開催された「津屋崎の風景と人生を辿る古地図未二観の会」で、中島師招聘の思いを柴田冨美子さんにお伝えすると、

「えーッ!!不動明王はわたしの守護神なのよ!お目にかかれるのがほんとに楽しみ!」

と大層喜んでくださいました。

有無ノ一坐は中島光信師のライフワークであるドキュメンタリー映画『不動明王ご巡業』にも出演させていただいており、お互いに「とわのかかわりあい」の間柄となっています。

ではここに中島光信師が寄せてくださったご挨拶の言葉を掲げます。

◇◆

神奈川県のつつじ寺・等覚院(とうがくいん)という寺で副住職をしております、中島光信と申します。
このたび縁に依って、津屋崎の地に参ります。

有無ノ一坐とのご縁は、15年以上になるでしょうか。
まだ一坐が一坐として旗上げする以前、まだ私が映画を撮りはじめる前からのお付き合いになります。

当時ワークショップやファシリテーションに魅せられていた私は、坐長の橋本久仁彦さんとの出会いから大きく揺さぶられ、氏を神奈川の寺に招いて、1年間の通し稽古をつけていただいておりました。

その後、互いの音信は確認しつつも、それぞれの道を歩むうち、氏は坐長として有無ノ一坐を立ち上げ、私は等覚院に江戸時代から続く伝統「不動明王ご巡行」のドキュメンタリー映画の製作に取りかかりました。

このドキュメンタリー映画の製作については、こちらに経緯などが詳しくあります。

なぜ今回、7月2日にお邪魔させて頂く運びになったのかと申しますと、伝統の「不動明王ご巡行」継続に、新展開をもたらして下さったのが、他でもない、橋本久仁彦さんをはじめとした有無ノ一坐の面々なのです。

どういう経緯かはまた7月2日の当日ご紹介できればと思いますが、一坐に映画『旅する不動明王』の製作の話をしますと

「それはおもしろい試みだ」
「有無ノ一坐が尊ぶところと、映画が描かんとするところには、共通するところがある」
「この映画をみていただきたい方々のお顔が、何人も思い浮かぶ」
「津屋崎で上映したら、さぞ喜んでいただけるのではないだろうか」

と、あれよあれよと背中を押してくださり、このたび幸いにも、九州の地を踏ませていただく事となりました。
映画『旅する不動明王』の試写と、円坐です。

映画は現在、内容の肉付けを行っているところで、完成までもうしばらく時を要しますので、この6年間の間に撮りためた膨大な映像素材の中からその骨子となる部分を抜粋してお持ちします。

試写の状態ではありますが、ご参加の皆様とともに観、そこから浮かび上がってくるもの、ひらけていくことについてじっくりと耳を澄ましあい、語り合いたいと思います。

7月2日、心から楽しみに参ります。よろしくお願いいたします。

中島光信 拝

ドキュメンタリー映画「旅する不動明王」試写会と古地図未二観
~津屋崎玉乃井不動円坐~

日 時 2025年7月2日(水)13~16時頃まで
会 場 旧 玉乃井旅館・二階大広間
守 人 中島光信・橋本久仁彦・松岡弘子・
    橋本仁美・橋本悠
申込・問合せ 橋本久仁彦(enzabutai@bca.bai.ne.jp)までご連絡ください

◆◇津屋崎玉乃井不動円坐前後・関連情報のご案内◇◆

翌3日木曜日は「第三回津屋崎の風景と人生を辿る古地図未二観の会」で、柴田冨美子さんや親しいご友人方をお招きしています。案内役は金木穂乃香さん。円坐守人は有無ノ一坐の橋本久仁彦、松岡弘子、橋本仁美が務めます。

なお津屋崎玉乃井不動円坐に先だって、6月29日の日曜日に福岡市で第12回の「はかた円坐~縁起をまとう」が開催されます。今や有無ノ一坐の盟友とも言える日本ファシリテーター協会協働促進プログラム委員長、「株式会社プロジェクトデザイン」の亀井直人氏が今回も一緒に坐ってくださいます。

今年1月に有無ノ一坐が東京で開催した「ファシリテーションを越えて」に参加して下さり、真摯に対峙して以来の氏との「個と個のかかわりあい」は、我ら一坐にとっての貴重な精神的達成となっています。

「ファシリテーションの未来」に関心のある方には得難い機会だと思いますので是非どうぞ。

我々は7月4日に福岡県篠栗町のフリースクール山ねこで「影舞稽古会“春ノ雪”」を実施した後、翌5日のうちに長野県へ移動し、6日日曜日に「第二回北安曇郡池田町円坐」を開催します。

第二回 北安曇郡池田町円坐

2025年夏、信州にて開催、第二回 北安曇郡池田町円坐のご案内です。 〜第一砲 松岡弘子〜 【 池田町との出会い 】 2023年の秋、長野県北安曇郡池田町のベトナム出身のれ…

有無ノ一坐の行動規範である「ご因縁」と、有無ノ一坐の精神芸能である「かかわりあいの舞台」のささやかな一輪の華を咲かせるため、九州から一転信州安曇野へ向かい、土地の方々とお目にかかります。

口承即興円坐影舞未二観 有無ノ一坐 橋本久仁彦