円坐影舞和讃

円坐影舞和讃

あなた任せの浮き心
わたし大事の懲り心

まなざし受ける一念に
こころころげて辞儀ひとつ

脇にそらすな 影の舞い風
あなたとわたしの境目は

分別ゆらす蝶の羽
はねふれあえば無分別

きくみるはなす縁坐舞台
きみは舞台とアラハレて

仕合う身と身は影身なり
影を舞う身は時を超え

ところ重ねてうつりゆく
かさねて誰が舞いうつる

わたしかあなたか
生者か死者か
あるいは誰もいや仕舞い

うつすとも水は思わず影ひとつ
うつるとも月はおもわず空ひとつ

生まれ生まれて来た道知らず
死に死に死んで往く道知らぬ

散る桜 残る桜も 散る桜
我にも終いの時来たる

あなたとわたしの指先に
終いをのせる死舞いなり

向き合えば
一畳で足る影舞の
ふたりの間は百畳間

踏み出して
魂の緒ふれるその刹那

往生成仏転落地獄
往きつ戻りつ無縁橋

縁に坐りて影舞えば
たそがれ紅き彼の岸に
一本桜の散り姿

寄らずさわらずひとり咲き
知らずしられずちり消える

咲いて散るのは指の先
先のさきには今生の

我が様うつす魂の川
山月記す人の世の

千代の御崎は堺川
一期一会の晴れ舞台

うらをみせ おもてをみせて
散る我ら

華の道連れ逢坂を
ふたりで歩くひとり旅

清き瀬音に山の青
関の円坐を白河に

置けば聞こえるひぐらしの
越えて往けよとひびく声

奥の細道分け入れば
冥土の山月鬼の道

凍てつく闇夜に手さぐりで
言の葉拾う守人の
かがむ背中に月明かり

たどれぬ我が身を照らし出す
音なき音のおとづれに

おもてあげれば一面の
この身を照らす光あり

まなざす温顔十重二十重
彼岸此岸の坐衆方

円坐守人その底は
守られ人とみつけたり

辿りたどられ円成の
坐舞台の空澄みきれば
花はくれない柳はみどり

散り花還りて咲き初める
きみは舞台と見晴らせば

あなたとわたしは空と道
願い願われ待ち待たれ

約した声をたどるたび
来いよこいよと乞う声に

きのみきのまま明らめて
この身このまま満たされる

幾百万の景色へて
たどりし道は空に果つ

円坐影舞縁坐舞台
未二を観じて夢仕舞い

あなたがわたしの還る空